くすのき書道教室ー兵庫県川西市ー

墨の香りx木の香り/ひとりひとりを丁寧に、少人数の書道教室

第51回未踏サークル展 出品作品 「翌檜」

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アスナロの木。

 

木材としてはヒバという名前で知られています。腐りにくいからまな板などに使われたりもするようですね。

 

井上靖の「あすなろ物語」にこのアスナロの木が登場します。

 

 

あすなろ物語」は神童と呼ばれた鮎太の子供時代から新聞記者になった大人までの半生を描いた井上靖の自伝的小説と言われています。

 

この「あすなろ物語」に出てくる女性が絶妙な色気があるんですよ。昔読んだ時は『うわ、こんなオンナええわ、ええわ~』って印象が強くてほとんど話の筋なんか覚えてなかったんですが。

 

改めて読み返してみました。

 

鮎太が13歳の時に一緒に住むことになった19歳の冴子という遠縁の女性が最高に色っぽいんですよ。周りの評判も気にせずちょっとわがままで気の強そうな冴子は恋人の大学生と心中をするのです。

 

その心中をにおわせるシーンが出てくるのですが、これがまたドキッとするんです。

 

「トオイ、トオイ山ノオクデ、フカイ、フカイ雪ニウズモレテ、ツメタイ、ツメタイ雪ニツツマレテ、ネムッテシマウノ、イツカ」

 

鮎太が寝ているところに滑り込んできてこんなこと耳打ちするんですよ!

僕は鮎太になりたい!

こんなシチュエーション妖艶すぎて悶えそうです。

 

とまあそんな話を書くつもりではなくて。

 

冴子はアスナロの木をみあげて鮎太にこんな話をするのです。 

 

「あすは檜になろう、あすは檜になろうと一生懸命考えている木よ。でも、永久に檜にはなれないんだって! それであすなろうと言うのよ 」

 

何者かになろうとあがいて結局は何者かになれない人間・・・それが翌檜に例えられています。鮎太も神童と呼ばれるくらいの少年でしたが、大人になれば普通の人間として描かれています。

 

あすは檜になろうとすることから、アスナロは「翌檜」という漢字があてられます。この当て字も絶妙で、日本語の豊かさを感じられますよね。

 

私もそうなんですが、周りの人と勝手に競争とかしちゃいますよね。「俺だって檜(一流)になってやる!!」みたいに意気込んで上だの下だの感じて優越感に浸ったり、劣等感にさいなまれたり。そんな葛藤も経験して初めて「ああ、自分は檜にはなれないよな」って気づかされるんですよね。

 

人との能力の優劣なんて超越して普通に生きる勇気が持てたらいいなと。そんな普通の翌檜でも毎日生きているんだよな~なんて思えたらそれで幸せだな。そんな思いを書にこめて作品を作りました。

 

9月上旬に尼崎で行われた「未踏サークル展」では、この「翌檜」を出品しました。私は1年に1度ちゃんとした作品を残そうと思い、この展覧会にその年その時の思いを込めた作品を作るようにしています。(ちなみに昨年は方丈記の「行く川の流れは絶えずして・・・」でした。)

 

「殻を破る」というテーマだったので、初めて淡墨に挑戦しました。「鈴鹿」という墨を濃く磨った後、水で薄めて、「古玄」というにじまない墨を磨って混ぜています。この「古玄」を混ぜることで、薄くなった墨の基線がはっきりと表れる効果があります。


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表具も悩んだのですが、木だからといって緑や茶にするのは芸がないなと思い、シンプルに黒にしました。黒にした効果でより淡墨が浮き出たのでよかったかなと思います。

 

はい、仕上がりはこんな感じです~。


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「これからは木しか書かないってのはどうですか?」

って木材業界の仲間に言われました。そんな書人はなかなかいないと思うのでおもしろいかなと思います。ネタがすぐ尽きそうで怖いけど~。

 

さあ来年はどんな作品をつくろうか、今から楽しみです。

 

 来年も殻を破りたいので違った書風を